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蒸気機関車の残り香を探して2023-02-27〜03-01


久しぶりに出張依頼が来た。行き先は熊本県球磨郡球磨村。くま川下りとくまモンの故郷か?くらいの知識しか持たずに自宅を0630出発。



ヤッチロを過ぎて上り勾配になり国境の長〜いトンネルを抜けたつもりだったが、越えた先の人吉も肥後の国であった。あれ、地理は得意なはずなんだがなと思いながら高速を降り球磨川沿いをしばし走る。

目的地はあの橋を渡ったらすぐそこのはずだぞと思ってたときに、念のためにセットしていたナビがなにやら騒がしい。表示されてる到着予定時刻もなんだか変だ。もしかして何かやらかしたかと車を止めてよくよく見ると、VICS情報では今走っている道が通行止めなので、はるか先まで行く迂回ルートを指示していた模様。これだからナビは嫌いなんだ、いやVICS情報提供者の手抜きだ、責任者出てこーい!と一人ブツブツ言いながら予定通り0955現場到着。

はい、仕事仕事! で、あっという間に深い山景に陽は沈み。。。






夜の帳が下りた頃に球磨川沿いのキッチン付きの貸家スタイルの宿にチェックイン。玄関に黒猫フックを発見しただけでもうすでにいい宿確定。ねこバカを喜ばすのは実に簡単だと思う。

しっぽが一番くろっぽ少佐に似てた真ん中のフックにかけていた鍵を持って早速買い出しに行き、二泊分の食料と酒肴をいそいそと持ちこんで密やかに一人晩酌。

しかしこの宿は料理できる几帳面な独り者にはいいだろうけど、家族連れで休暇に訪れて嫁にお三どんさせてると将来離婚のもとになりそうな気がする。でもまぁ駄目亭主を判別するにはいいかも。あと、同棲前のカップルがお試し生活するのにもいいかも。

あ、筆者の育ってきた時代背景を鑑みて、今どき使うと非難を浴びそうな単語をあえて使用しておりますのであしからず。



おぅ、日奈久のちくわとそのへんで買った安い球磨焼酎がしみじみうまい。黒麹最高。いや、黒いのは麹もねこも最高。ひとつ気付いたのは、自分は芋焼酎好きだと思ってたんだけど、そうじゃなくて実は麹の香りが好きだったんだということ。



夜も更けてから暇を持て余した私は買ってきた卵を茹でる。

好みの半熟(割ったらトロっと流れ出そうだけどかろうじて垂れない程度)に茹で上がったかどうだか確認しようと食べようと思ったら塩がない。それどころか醤油もマヨネーズも、とにかく調味料が一切ないではないか。

くそー、一生の不覚。しょうがないので朝飯のビビンバ風ピラフ(もちろん冷食)に添えて一緒に食べた。


主題とは関係ないけど、昔は地方へ出張に行ったときに見る、地方独自のコマーシャルが色んな意味で面白かったんだけど、最近は箸にも棒にもかからんね〜。

幹線道路沿いの風景も、日本中どこ行っても同じようなチェーン店ばっかりなのと似た状況なんだろうね。大資本主義ハンターイ! 街の元気を返せー!と唱えつつ現場へGO!



昨夜は暗くて気づかなかったが橋が落ちてるぞ。

ん? 増水の被害なのか?と鈍い頭がなにかに反応し始めた。



現場の近くにあった肥薩線一勝地駅に立ち寄ってみた。物産館みたいになってて土産物を売っていたので買い込む。そして情報収集。

なんてこった。あの広くて深い球磨川がすぐそこまで溢れたんだと。今更ながら自分の想像の遥か上を超えていた被害の実態を知ったのであった。



このマークを目安に停車していた蒸気機関車は確かSL人吉号。何年か前に自宅近くで気動車に押されるか牽かれるかして回送されてるのを見たな。

いやいやもっともっと前に熊本でSLあそBOYとして駆け抜けていった線路の真横で吐き出した黒煙を嗅いだこともあるやつだ。

そしてもっと奇遇なことに、この旅から帰ってすぐに、最後の火入れ式の報道を見たんだった。



嘉例川駅に見劣りしないような立派な駅舎だ。



ホームも2面あるし大きな駅だったのかもしれない。



今でも到着する汽車を待っているような佇まいだった。





そういうことなら見ておかねば。凄まじかったであろう被害の実態を脳裏に焼き付けておかねばなるまい。

国道の対岸を、工事車両のじゃまにならない昼休みを狙って走ってみよう。すでに幾人もが撮影したであろう光景だけど、俺も残しておいてみんなに見せないといけないと、妙な使命感が湧き出てきた。


写真を見ておわかりだと思うが わたしは晴れ男



この日もピクニック気分になりそうな陽気だった



だけど



この光景が わたしの気持ちを否応なしに土砂降りにする



愛でる人もいない梅がきれいに咲き誇っていても



誰も座ることのないひしゃげた椅子のある風景が私の呼吸を止め



平行であることを否定されたレールはそのカーブの少し先で



狂ったように暴れた水の塊に飲み込まれていた



今、目の前を流れている球磨川は実にのどかな姿を見せてくれているが、ひとたび天が怒り狂うと、せせらぎは濁流へと姿を変えニンゲンの生活ごと押し流してしまう。

私がいつも馬鹿にするテレビ屋のセリフである「茶色く濁った濁流」と言うのは濁った水ではなく水混じりの土砂だ。その中には大小様々な石礫が踊り邪魔するものを打ち砕きながら下流へと転がり流れていくのだ。

愚かなニンゲンにそれを止めるすべはない。






最終日にようやく神社にお参りする時間が取れたので、知らずにいた自分の愚かさを侘び、今後の安全迅速な復興事業をお願いして帰路についたんだけど、帰りの高速は事故渋滞あり、阿呆に邪魔されること2回、そして大雨の三重苦と、神様にちょいとお灸をすえられたような気分で反省しきり。


参拝の後で、狛犬(阿)が可愛いなと写真を撮って階段を降りようとしたときに、背後から呼ばれた気がして振り向いたら狛犬(吽)が、私も撮ってねとニッコリ微笑んだのでパチリと撮影し深々と頭を下げたのは忘れられない思い出。


水害で亡くなられた方々が安らかに眠られますように。そして被害を受けた皆様の復興すべてが安全にすすみますように。心よりお祈り申し上げます。



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