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パイプオルガンを巡る旅2017-10-15〜16


トランジットでモスクワにいたオルガニストの竹佐古真希さんから今回の旅のきっかけになった「長崎決まりました」のメッセージが届いたのは8月の初めころだった。思い返せば初めての出会いは福島県白河市でのチーム新幹線のオフ会だったからもうかれこれ14年以上になるんだ。そんな私がなぜか白河教会で結婚式を上げた話は置いといて。

長崎空港で10年ぶりくらい(記憶が定かでない、よくあること)に再会し、まずは腹ごしらえとなり長崎のローカルフードの代表選手はやっぱりちゃんぽんでしょうとF山M治氏も食したという空港近くのお店に向かう。なかなかパワフルかつユニークな女将さんの采配で、待たされるのが苦にならない不思議な魅力の店で、しっかり魚介の出汁の効いた旨い一杯でございました。



長崎での演奏のはずだったのに向かうは福岡女学院。私が今ひとつ地理に明るくない春日大野城エリアだったけど、スマフォナビの力も借りつつぐるっと回ってどうにか時間ぴったりに到着。舞台袖に通じる裏口から入り大きな扉を抜けるといきなりステージで、初めて間近にするパイプオルガンの大きさに驚く。オルガンを据え付けるのはビルディングって言うくらいだもんねと、おののいている私の横で真希さんが笑う。

凄い、凄すぎる。私の想像を超えていた。荘厳だ。



時間がないので練習を始める真希さんがコンソールの椅子に座り、おもむろに音を出す。少し離れたところから見ているとまるでガンダムか宇宙戦艦ヤマトのコクピットだ。なんだこの感覚は。人間とメカが一体化した途端に存在感が爆発する。

凄い、凄すぎる。どんどん私が小さくなる。

しばらくして思い出したけど、ここって日本で最初のセーラー服ってテレビで見たような気がして尋ねてみるとやはりそうであった。よく見ると玄関や控室にもセーラー服を着た女学生のフィギュアが飾ってあった。なんだか急に秘密の花園に見えてきて、こんなおっさんが学校内をうろついていてはイケないのじゃないかとそわそわしてきた。そんなワタシを文字通り尻目に真希さんは練習に励む。だんだんと音がまとまってきて気持ちよくなってくるのが嬉しい。



しばらく圧倒されて借りてきた猫状態だったけど、段々と知的好奇心がムクムクと湧き立ち、ホールの中を歩いて気持ちのよいポイントを探す。素晴らしいオーディオセットと同じように二等辺三角形の頂点あたりに立つと音が素晴らしく広がる。直接音や反射音や残響が入り乱れて音に満たされる。包まれる。飛べそうになる。

そのうち今回のメイン曲に移る。その曲を何度も繰り返し聴いているとだんだんとあるイメージが浮かんできた。子供の頃父親に怒られて「ゴメンナサイもうしません許してください勘弁してください」みたいな気持ち。これを毎日聴いていると、とてもまっとうな善人に成れそうな気がしてきたけど無理だろうな…ふと気がつくと今日のバンメシなんにしようと考えている自分がいた。反省。

凄い、凄すぎる。一瞬だけど真っ当な人生を歩めそうな気になった。





・・・・・バンメシはモツ鍋でした。


久しぶりに酒を交わしゆっくり語り合った一夜が開け、翌朝はまた7時から練習を始めた傍でオルガンの隙間から中を覗き込んでどんな仕組みになっているのかと好奇心の塊になっていると内部に明かりが灯った。ふと見ると専属オルガニストの方が気を利かせてスイッチを入れてくれたようで恐縮しつつもあちこちまた覗いて回る。ふ〜む、よくわからん。基本構造を調べてくればよかった。

中高の部、大学の部と、二度の礼拝を無事に済ませたあとに、私まで豪勢なお昼をご馳走になったあとは専属ドライバーのお仕事開始とばかりに一気に長崎道を走って大村へ移動する。ごちそうさまでした。






雨の九州道長崎道を走って到着した活水女子大学看護学部で2台目のオルガンに対面。書き忘れたけど、1台目のはフランス製だけどドイツのある特定の(詳細思い出せない)曲に合わせた調律を施されたオルガンだとのことで、それに対してここのは日本製だと聞いて驚く。これまた特殊なチューニングで、メモしなかったので詳細は全く思い出せませぬ。平均律ではないとだけは耳が覚えてるけど圧倒的に知識不足でお恥ずかしい。

※追記 福岡女学院はドイツバロック様式で、活水看護学部は、ルネサンスタイプのミーントーン調律。との情報です。

ここでいきなり預かった鍵の差し込み口がわからずにオルガンのまわりを覗き込んで探す。こんな体験もなかなかできないと思いながらキースイッチを発見。高級なディンプルキーにビルダーの思いを感じつつキーを回すと防音木箱の中からファンモーターの駆動音がかすかに聞こえてきて一安心。



早速練習が始まり気持ちのよい場所を探してウロウロするもなんとなく音が硬い気がする。あとで聞いたところオルガン自体がまだ新しい上に、この夏休みの間はおそらくあまり弾かれなかったのだろう。もしまたこのオルガンの音を聞く機会に恵まれると経年変化がわかって面白いと思う。とは言え1時間も経つと少しずつだけど柔らかくなってきたのを感じる。連日の雨で湿度の影響もあっただろうし。とにかくまたいつかお会いしたい一台。





そしてまたワレワレは雨の高速を走るのである。目指すは有名な長崎のオランダ坂の上の活水女子大学の東山手キャンパス

荷物持ち兼付き人兼運転手としては活水への車両乗り入れ方を調べておかねばならないけど、長崎の知人数人に訊いても車で行ったこと無〜いという答えばかりで困ってしまった。こんな事もあろうかと実はこっそりと大村キャンパスで入り方を訊いておいたので迷わず現着。

守衛さんからお待ちしていましたとのありがたい言葉に感激しつつ土砂降りに近い雨の中を本館の真横に車を止めてお邪魔する。チャペルは三階だと聞いていたので階段を登って大チャペルの扉を開け3台目のオルガンと対面。ひと目でフルカスタムだと解る作りだ。



ここでもすぐに練習が始まる。オルガニストの旅は過酷なのであると否が応でも知らされる。



パネルを開けるとコンソールにはたくさんスイッチがあった。



振り返るとこんな立派なトラス構造が眼に入ってくる。ここは大チャペル。



おぉ、電気仕掛けだ。興味津々のおっさんに素早く変身する。ぶぉぉぉんと低音が響く。頭のなかでヤマトの交響曲が響く。文章が細切れになる。

同じものが二つと無いのがパイプオルガンだということがよくわかった旅で好奇心の芽がまた一つ生えてしまった。ため息をついていると今回の仕掛け人で、著名なオルガニストである椎名雄一郎先生が来られたのでごあいさつ。



お忙しい中を1933年に作られた小チャペルや、シンボルである六角堂内部の祈祷室へ案内していただく。そこは卒業生でも知らない人は知らないとのこと。上の写真が独特な雰囲気を醸している小チャペル。祈祷室は流石に撮影を遠慮しました。

私の旅はここで終わって自宅へと戻ったのだけど、オルガニストの旅はまだまだ続くのであります。またいつかどこかで素晴らしい演奏を聞かせてくださいね。今回お世話になった皆様、大変貴重な体験ができました。本当にありがとうございました。



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